Gesanmedo ――Tibetan Highlands Elementary School Construction Fund NPO

 

お酒と涼山の彝族

(上)

烏里 烏沙

 彝族は中国民族という大家族の一員です。56民族の中で、彝族は、勤勉、勇敢、想像力の豊かな民族として知られ、悠久の歴史があります。農業を主産業としながら牧畜業も営んでおり、長い歴史の流れの中で独自の素晴らしい文化を創り出しました。殊に天文、暦、気象、医学などの分野では際立つ文化を持ち、それらは中国及び全世界に貢献しています。

 さて、酒文化は彝族の特筆に価する文化で、彝族にとって酒は生活に欠かせないものですが、酒を飲む形も、遠い昔から、彝族独自の形式が伝えられています。特に涼山の彝族は酒を愛し、大切にし、酒文化も豊かで特色があります。ひとくちに酒文化といっても、それは、酒の歴史、醸造の仕方、味、効用及び酒用の器具を包括しており、それに飲酒の方法などを付け加えたものです。子供の誕生を酒で迎え、人が死ぬ時も酒で冥界へ送ります。酒が飲めるか飲めないかはおいて、酒は彝族社会の政治、経済、軍事、宗教、風俗などの分野に浸透し欠かせません。言い換えれば、彝族の酒文化は、鏡のように彝族の歴史、風俗、性格や生活スタイルを映しているといえます。

 彝族に「ホムォレナジョ、ニムォレズジ」という諺があり、中国語に訳すと「漢人貴在酒、彝人貴在酒」というほどに、酒は涼山の彝族の生活と深く結びついています。「有酒便是宴」(酒があれば宴会となる)といい、テーブルや椅子は要らない、場所も選ばない、料理もつまみも要りません。相手が誰か知らなくとも、その場に輪になって座り、酒盃を回しながら豪快に飲むのです。彝族の人たちが「転転酒」と呼ぶ飲み方です。

 彝族史書「六祖分支」が、天地諸神及び萬物の霊が、酒を前にさまざまな喜びを表している状態を描写しています。

 「天神見酒喜、地神見酒楽、柏草見酒開、雁鷲見酒吟、日月見酒亮、大地見酒朗」(天神は酒を見て喜び、地神は酒を見て心躍り、百花は酒を見て咲き始め、鳥は酒を見て歌う、日月は酒を見て輝き、大地は酒を見て元気漲る)

 彝族の伝説があります。遠い昔、漢、蔵(チベット)と彝族の、3家族が同じ山に住んでいました。3家族のそれぞれの息子たち三人は、大変親しくなって義兄弟となりました。漢族の息子は「大哥」で、蔵(チベット)の息子は「二哥」、彝族の息子は「三弟」の順でした。

 或る年、彝族の「三弟」が沢山の蕎麦の種を播き、天候にも恵まれて豊作になりました。彝族の「三弟」は蕎麦を作って、二人の兄に蕎麦を食べにいらっしゃいと誘いました。蕎麦は沢山ありましたので食べ切れませんでした。翌日、3人が残した蕎麦を食べようとしたところ、蕎麦は香のよい美味しい酒となってました。三人は飲むのを惜しんで、朝から晩まで勧め合いましたが、結局誰も飲まないでいると、天上から飛んできた者がおり、「皆で飲みましょう!全部飲んでしまっても、よく働けば、又新しいのができるから…」と言いました。そして、4人で飲み始め、皆が酔っ払うまで豪快に狂飲しました。ですが、不思議なことに、椀の中の酒はいくら飲んでもなくなることはありませんでした。

 後で、天から飛んできたのは「幸福の神」と分かりました。美味しい酒が飲めるというので、「幸福の神」はそのまま地上に住みつき天には戻らなかったと言うことです。この伝説は代々伝えられ、彝族の「転転酒」の由来となりました。

 伝説ですから信憑性はありませんが、彝族の人たちが特別に酒を愛するのは事実です。彝族の家を訪ねますと、家のあるじ主が必ず酒を出して客と一緒に飲みます。主は話しをしながら酒を勧め、「世の中には通れない道はない、彝族の酒を断わるわけ理由はない、さあ、どんどん飲みましょう」と酔いつぶれるまで続きます。祭や正月には、彝族の女性たちが酒壇(口のやや小さな甕)を持ち、自分の家の前に立って客を待ちます。人々が玄関の前を通ると必ず酒を勧め、通る人たちは酒を飲まないと通り抜けることができません。彝族の麦管酒(竹竿やストローを使って飲む酒)を飲んだ人たちは皆、「彝家の蕎麦酒より美味しいものはなく、彝族の心より美しいものはない」と言います。

 

 最後に、涼山彝族の酒歌を聴いてみましょう。歌自体はそれほど古くはありませんが、彝族の人たちがどんなに酒が好きかご想像がつくでしょう:

 

 『涼山彝族酒歌』

 

 耶―、遠方的客人来約、来約

 耶―、尊貴的客人来約、来約

 呀子哩呀、請喝彝家祝福的酒約、呀子哩呀、

 呀子哩呀、請喝彝家知心的酒約、呀子哩呀、

 呀子哩呀、請喝彝家豊収的酒約、呀子哩呀

 呀子哩呀、請喝彝家真誠的酒約、呀子哩呀

 我テヌ的糧食堆成山、美酒流成河

 彝家的心象篝火一様紅、金子一様純真……

 

 『彝族酒歌』(日本語訳)

イェアー、遠くから来られたお客様よ、いらっしゃい

イェアー、尊敬するお客様よ、いらっしゃい

ヤーズリヤー、彝族のお祈りのお酒をどうぞ、ヤーズリヤー

ヤーズリヤー、彝族と交流を深めるお酒をどうぞ、ヤーズリヤー 

ヤーズリヤー、彝族の収穫を祝うお酒をどうぞ、ヤーズリヤー

ヤーズリヤー、彝族の真心がこもったお酒をどうぞ、ヤーズリヤー

我々の作物は山のよう、美酒は河のようで飲みきれない

彝族の心に燃える篝火のように赤く、黄金のように雑じりけがない……

 

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――――チベットカム山岳研究会・最終更新日:2009年10月15日――――