Gesanmedo ――Tibetan Highlands Elementary School Construction Fund NPO

 

彝   人

(下)

烏里 烏沙

 ‘わんりぃ’7月号、9月号の2回に亘って彝族の歴史と階層制度について簡単に紹介した。今回は彝族文化のいくつかの側面を紹介したいと思う。

 中国における数多くの少数民族のなかで、彝族を際立たせているのは、固有の文字の存在だろう。彝語は、シナ・チベット語系のチベット・ビルマ語族に属し、6つの方言グループがある。彝文字には「爨文」,あるいは「是韋(日本語にはない文字、古代彝文字の意味)書」、「羅羅文」などと称する独自の文字があるが、漢字のような表意文字ではなく、日本のひらがなとおなじ表音文字である。

 彝文字の起源は相当古くに遡ることができる。唐代起源説、漢代起源説などがあるが、雲南省紅河県のピモ(宗教の司祭者)である李八玉昆氏が西安から出土した約6000年前の半坡彩陶符号(西安半坡で発掘した陶器、その上、文字を書いてある)を解読したという報告もある。中央民族大学言語所の現地調査では、四川省の彝族には8000余文字があり、貴州省の彝族には約7000の文字がある。雲南省と広西省に住む彝族の彝文字をあわせると、2万文字あると推定されている。

 彝文による歴史、文学、医学、暦学、詩文、占卜、神話などに関する古書も数多く残っており、なかでも涼山に流伝する経典『ネウォテイ』は人類起源を語って出色のものである。

 1956年の調査では、彝人による彝文字の識字率はわずか3%にすぎなかった。彝文字はいわば神聖文字だったので、祭司(彝族の宗教は、自然崇拝、祖先崇拝を中心とした原始信仰)であるピモのみが、彝文字で記された経典を読むことができたのだ。

 彝族の多くすむ四川省の涼山では、1975年に819の標準文字を制定し、学校で勉強できるようになり、かつてピモしか読めなかった文字が、一般の彝族の人たちも読めるようになった。ただ、最近では、彝族の居住地にも中国改革開放の波が寄せてきており、彝族の言葉や文化を学ぶことが就職など将来に役立つという見通しが少ないというのが現状で、涼山の、いや、世界に唯一の彝文学校、四川省彝文学校の入学希望者が年々減ってきており残念なことである。

 彝族と同じチベット系の民族で、大・小涼山の周辺に住むチベット族、プミ族、モソ族などの宗教がラマ教であるのに対し、彝族は、自然や、祖先を崇拝する原始宗教を信仰している。

 彝族の宗教の技能者はピモとスーニーの両者に分けられている。ピモは経典を含め、道理の説ける者でスーニ−は鬼神と交わることのできる者である。ピモの主な役目は、宗教祭祀儀礼を取り行うことであり、とりわけ人が死んだとき、その魂をいかにすみやかに、正しく送ってやるかが重要なことである。一方、スーニ−が頻繁に行うのは、ニツゲ(駆鬼)である。羊皮鼓(楽器、太鼓と似ている)を叩きながらスーニーの神であるワサ神をよぶと、スーニーはトランス状態に陥り、そのカによって病気などを引き起した鬼(ツ)を追い払うのである。逆に鬼に備えることもある。害をもたらす鬼をタコを蛸壺に押し込むように缶に閉じこめてしまうのだ。敵に呪いをかけるショプという儀式はビモもとりおこなうが、スーニー独自の技ものとしては、依頼者(参加者)に幻覚をみせてしまうニョチという技がある。ピモは基本的には世襲であるが、幼いころから学業を積まねばならない。スーニーは重い病気にかかったり、発作を起こしたりがきっかけでなる。突如として山林に入ってしまい、ピモが治療に当たるが、好転しない場合、スーニー神(ワサ神)が附体したと認定されるのだ。社会的地位に関しては、両者とも平民階級の白彝に属するが、ピモは智者として特別視されているようである。

 「口琴で話し、月琴で歌う」、これは彝族の人々が楽器に対してのたとえである。彝族は古代から豊かな音楽伝統を維持してきた。「彝族編鐘」という古代楽器の出土はそれをみごとに証明している。彝族には「笛」、「ピル」、「瓢箪笙」、「大三弦」、「大胡」、「マ−プ」(馬布)、「ソーナ」(噴咽)などの伝統的な楽器があり、これらの楽器を使い、民謡を大幅に採り入れたのが「彝戯」である。

 「彝戯」の歴史はそれほど古くないが、民間には「セ−タイジェ」という彝族の原始的な芝居がある。「セ−」は人、「タイ」は変化、「ジェ」はゲーム、遊びの意味で、人類変遷の芝居である。

 現代音楽においても、しばらく前は「涼山三鷹」、最近では「彝人製造」の(CDやカセットのタイトル)曲比哈日、曲比哈布、(イ果:日本語にはない文字)伍阿木の3人によるグループの歌が各地のテレビ番組でよく放送され、人気がますます高まって来ている。アメリカMTV音楽ネットワークの国際総裁であるWilliam H Relay氏が「いままで中国で聞いた最高の歌」、「彼らは中国の現代音楽をリードしていくでしょう‥‥‥」と言っており、かれらの作品『乞愛者』、『我要ト縺iト繧ヘ日本語にはない文字)』がMTV世界音楽ネットワークに採用されて世界に向けて、放送された。現代中国音楽としては奇跡ともいえるだろう。


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――――チベットカム山岳研究会・最終更新日:2009年10月15日――――