Gesanmedo ――Tibetan Highlands Elementary School Construction Fund NPO

 

・ チベット の 教 育 事 業 ・

 

昔のチベット教育

 1952年以前のチベットでは、基本的に教育とは貴族が受けるものであり、教育を受ける場としては寺院・政府が管理する公立学校・民間が管理する“私塾”と呼ばれる私立学校等があった。

 ツォンカバがゲルク派をおこした15世紀初頭からダライラマ5世(1617〜1682)の時世までにチベット全土では“政教一致”という封建農奴制度が進められ、チベット仏教が行政においても影響力を及ぼすようになっていた。僧侶は職業のようにみなされ、一般社会では特殊な地位を得ており、経済面を民衆・政府によって保証されていたばかりでなく、教育を受ける権利を持っていたので、その後何世紀もの間、寺院における宗教教育がチベット教育の中心となるようになったのである。当時のチベットでは僧侶として寺院に入り経典を学ぶ為に文字を学ぶ以外、一部の貴族の子弟を除いた一般市民が教育を受ける機会はないに等しかった。

 チベットの伝統文化、また哲学・歴史・天文・医学・芸術・文学等の文化知識はすべて、寺院内の青少年僧侶教育を通して後世に伝えられた。また民間の教育機関(私塾等)においても同様、仏教の経典を学ぶ過程において始めにチベット語を学ぶという、授業内容も宗教とはきってはきれないものだったのである。

 ではこの封建農奴制のもとでどのような教育施設があったのか、簡単に紹介していこう。

1、 地方政府管轄の公立学校

 要するに僧官・俗官など、役人の養成学校である。

 生徒は主にラサ三大寺院(デプン・セラ・ガンデン寺)が送り出した貴族出身の僧侶、また民間私塾を卒業した貴族出身のものであった。しかし規模も小さく、正式な教育の場というよりは、地方役人の育成を目的としていたにすぎなかった。

2、 国立ラサ小学校

 1937年国民党中央政府設立の教育施設。1947年には廃校。詳細はいくつかの説があるが、最盛期には生徒が200〜300人いたと言われている。しかしこの学校の生徒のほとんどは漢民族・回族の子弟で、チベット族出身の生徒はごくわずかであった。

3、 寺院

 チベットには1959年以前、2000余りの寺院があり、そこで11万前後の僧尼たちが宗教教育を受けていた。前述した通り、僧尼たちは政教一致という封建農奴制度のもと地方政府の援助を受け、衣食住はすべて保証されていた。寺院はすなわち学校、僧侶は教師、経典は教科書だったのである。

 しかしダライラマ13世(1876〜1933年)の頃になると徐々にゲルク派が衰退し、寺院内の風紀が乱れ、上層の僧侶たちの生活も腐りきり、賄賂や汚職行為なども盛んに行なわれたのと同時に、寺院内の宗教教育も衰退の一途をたどっていった。ダライラマ13世も再三手をつくしこれらを戒め、状況改善、教育の普及に努めたが、大勢が変わるまでには至らなかった。

4、民間管轄の“私塾”

 実質的には前述した公立の役人養成学校の予備校、また貴族や商人の子弟の字を学ぶ為の学校という色合いが強かった。

 1920年前後、チベット全土には20ほどの私塾しかなく、生徒も400人程度であったが、1937年頃までにはラサだけで30校にも増えた。当時の就学率(寺院に入るものは含まれない)は国民党政府の調査によると12%と大変低いものだったが、その大多数は私塾で学んでいた。学校教育が後れていたチベットでは、この“私塾”が事実上初等教育の場となっていたようだ。しかし環境は最悪、ほとんどの学校は机や椅子、教科書さえもないような大変粗末はものであった。

 以上のことから当時の教育事情は大変宗教色が色濃く、階級性・封建農奴制度の影響を強く受けていたため大変閉鎖的で、保守的なものだったことがわかる。寺院がチベット教育の中心となっていたので、ラサの三大寺院(デプン・セラ・ガンデン寺)がすなわちチベットの最高教育機関だったわけだが、しかし実情はというと1949年の調査によるとそのデプン寺の4000名の僧侶のうち8割のものが読み書きできない、いわゆる文盲であったというのだ!僧侶においてもこのようなありさま、僧侶になっても真の教育を受けられないような状況だったのだから、僧侶以外、大多数の人々の教育の機会は本当にわずかなもので、当時はチベット全人口の95%が文盲であったとの調査結果が出ている。

 

現在のチベット教育

1、 入学率

年 分
小学校学齢児童入学率
小学校卒業生入学率
中学校卒業生入学率
1981
1982
1983
1984
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
1993
1994
76.0
78.0
42.1
46.3
46.0
50.0
48.4
55.7
53.1
67.4
45.6
52.4
58.9
66.6
29.6
41.1
49.7
44.0
44.9
47.9
53.2
39.6
73.6
62.1
67.7
62.7
74.0
87.3
38.1
39.2
36.0
49.4
44.4
48.8
41.3
40.7
36.2
32.9
32.4
30.2
29.9
表ー1 チベット自治区学齢児童入学率と小学校、中学校進学率(%)
チベット自治区統計局、1995:285 による 
『西蔵社会経済統計年鑑』(1991)は54.6%(チベット自治区統計局、1991:396)

 現在のチベットは9年の義務教育を行なっている。

 1985年から1995年にかけて生徒数が増えた(表・・・参考)のと同時に、公立学校の数も増え、全小学校の6割以上を占めるようになった。公立学校は民間の学校よりも教育環境や授業内容が格段に良かったからであろう。

 小学校の入学率も大幅にアップしてきた。学校数の調整などで83年頃には42%にまで低迷したが、その後また徐々に上昇してきている。そのあと中学への進学率は上昇しているものの、中学卒業後高校や専門学校に進学するものは少なく、現在中学教育までが重視されてことがわかる。(表・・・参考)

 就学率が増えてきたとはいえ、依然として低いレベルである。この状況が変わらない限り分盲の数は減少しないであろう。

 

2、 地域格差

 

1988
1989
1990
 都 市
 地区所在地
 県 鎮
 郷 村
88.8
99.6
69.0
49.4
87.3
100.0
86.2
43.3
89.4
63.2
54.6
50.7
 総 計
55.7
53.1
54.6
 うち女の子
54.3
47.6
63.1

表ー2   チベット自治区小学校学齢(7ー11才)児童入学率    (%)

チベット自治区統計局、1989:549、1991:396 による

 地域による入学率の差は大きい。(表ー2 参考)

 ラサ・シガツェの都市部においては9割近いものの、その他の県・農村地域の入学率は5割程度と大変低いものだ。特に地方の県においては89年から90年にかけて突然大幅に減少、農村部と近い率になっているのはなぜか?今のところ原因は不明だそうだ。

以上のことからもチベットの就学率をあげる為には、農村地域の教育事情の改善が一番の問題であることが明らかである。

3、 教育費

 公立学校に入学するチベット族等の少数民族学生の大部分は大学卒業まで、中国中央政府が基本的に費用を援助している。1985年より一部の指定校とその周辺地域の225の小中学校において、3万2千名以上の学生の衣食住が保証されるようになった。この制度を中国語で三包(衣・食・住)と言うそうだ。当時この三包を受けている生徒は全小中学校の学生の四分の一に達していた。

 この頃同時に農村・遊牧民居住区で中央政府からの補助金により、寄宿舎制の小中学校が設立された。

4、 授業事情

 現在チベットの小学校においてはチベット語を主として用いているが、小学校高学年以上になると中国語の教科書も併用して用いられている。これはチベット人民が中国語も話すことによって民族間(中国には56もの民族がいるのだ!)の交流を容易なものにし、チベット社会全体の発展に繋がるとのねらいもあるのだろう。

 小学校においては9割がたチベット語で授業が行なわれるが、中学・高校へ進むにつれてそれが2割、1割と急激に減少。すなわち学習環境が急激に変化する。

これは教師の数をみても一目瞭然。中学教師の7割近くが、高校においては8割以上の教師が中国語を話す漢民族!これはチベット人教師の不足という問題をも浮き彫りにしている。特に理数系・英語等の教科を専門とする教師が少ない。

 これらの結果はこれまでの学校教育の後れを考えれば仕方のない事ではあるが、チベット人教師の養成というのも教育事情発展のひとつの課題であろう。

教科書も同様 

 教育事情の後れからきちんとしたチベット語の教材というのが少ない。したがって中国語の教材を使わざるをえないという現状もある。現在教材の翻訳作業がどんどん進められてはいるが、今後もより一層の改善が必要だ。

また言葉の問題も重要である 

 中学に進学する新入生の中国語はほとんどが初級レベルであり、ほぼ中国語で行なわれる授業についていけない場合が多い。これがチベット人学生の学習レベルの低さに繋がってしまっている。

中学・高校において、教育体制をしっかり整えるということも進めていかねばなるまい。

『西藏的人口と社会』(同心出版社 作者:馬戎) 翻訳整理:松本佳世子

 


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――――BBC世界の屋根探険会 烏里 烏沙 制作・2004年3月8日――――