Gesanmedo ――Tibetan Highlands Elementary School Construction Fund NPO

 

中国・四川省 雲上自然と人

――渡辺 千昭

 

◎ 本文は山岳写真家渡辺千昭氏が二〇〇四年九月三〇日から一〇月二日までの『山梨新聞』紙面に三回連載でカラー写真と共に発表したもののうち文章のみを抜粋転載したものである。

 

雀児山と新路海

聖なる湖が広がる別天地

 

 今夏、中国四川省西部に広がる東チベット高原山地を二度訪れた。七月は山岳写真の取材で、八月は私も理事を務めるNPOチベット高原初等教育・建設基金会が昨秋から建設を進めてきた日中友好ゲーザンメド曲登小学校完工のめどがたち、同校が八月中旬に開校されるということで、その祝賀と親善を目的とした訪問団の団長として現地入りした.何しろ目的地の理培県山登郷は標高四,三〇〇材の-高地.旅行期間十七日間の前半を高度順化に充てることにし、成都からチャーターした中国製中型バスで四日間を費やして馬尼干戈(マニカンコ)に到着した。十三人から成る訪間団員の大半は体が高度に慣れるようになっていた。

 馬尼干戈は標高三,八○○。、川蔵公路北路(成都-チベット自治区を結ぶ)と青海省方面からくる公路が交わる交通の要衝だが小さな街である。ここで一泊した後,四川省の雄峰・雀児山(六,一六八。)の山ふところに位置する新路海に向かった。街から新路海までは約十三キロ、車で二十分ほどの所にある。標高は三,九七〇。、一帯は自然風景区として管理されている。

 ゲートで入場料を払い橋を渡って高山植物が咲き乱れる草原をしばらく歩いていくと、前方に広い湖が見えてきた。聖なる湖,新路海だ。湖岸には仏塔がまつられ、タルチョが風にはためいている。真昼の陽光を受け、湖面のそこここできらめくさざ波の模様が美しい。湖の彼方には氷河をいただいた雀児山の姿.夏雲が去来してはその山姿を見え隠れさせていた。

 人影もさほど多くなく、豊かな自然が息づく、ここは雲上の別天地だ。ゲート脇の草原にぼつんと張られたゲル(放牧用天幕)に泊まれないかと、公園管理事務所に交渉して許可をもらい一夜をここで過ごした。パオの内部は畳二十四畳ぐらいの広さだろうか。持ち込んだ食材で自炊をした後、マットと寝袋でそれぞれに寝床を確保した。

 

雅龍江支流・甘孜

丘にそびえる極彩色の寺

 

 今回の旅では甘孜(カンゼ)に二泊した。標高三,三一〇。,雅龍江の支流沿いに開けた南北ニキロ、東西一キロほどの街。徳格(デルゲ)康定(カンティン)新龍(ニャロン)など四川省の地方都市や青海省方面などの各地域から物や人の流れがあり、川蔵公路北路の要衝に位置している。街を歩いてみるとチベットの民族衣装を着た人々の姿が多く見受けられ、チベット特有の仏具や装束,生活用晶などを売る商店街や露店などがあってにぎやかだ。

 甘孜に着いた日の午後、街の北側の丘上にそびえる甘孜寺(カンゼ・ゴンパ)を見学した。チャーターした中型バスは道路が狭いため街の外れまでしか行くことができず、後は歩いて登ることにした。集落を抜け、川に架かる橋を渡って丘の東面を北側から南に向かって斜めに登りきると甘孜寺の境内に出た。境内にはマニ車を手にして参拝する巡礼者の姿が見える。

 本殿などの外観は赤や金色や空色などチベット寺院特有の極彩色が施されていて、見上げるとかなり大きな建物だ。寺はゲルク派の大僧院で十七世紀の創建、僧の数は三百人ほどだという。

 仏像や壁画などを見学していると年配の僧が手招きで別室を案内してくれるとのこと。後を付いていくとそこは祭事(チャム・仮面舞踏)で使われるお面の展示室だった。猿、象、牛、龍などの動物,男女の神々であろうか怒った顔や笑った顔などさまざまな表情をした面が所狭しと壁面に展示されている。壁面の一角にはどくろと炎をアレンジした大きな帽子(冠)も並べられていた。一つ一つをつぶさに観察していくと表情がそれぞれに面白い。思わず手にしていたデジカメのレンズを向けた.多くのチベット寺院がそうであるように,この寺も見晴らしのいい高台に立地している.特に左手島みの空に万年雪をいただいてスカイラインをきる、聖山・カワラルの山姿が印象的だった。

 

チベット族が暮す曲登郷

素朴な優しさあふれる地

 

 われわれNPOが中心になって建設し今回開校する日中友好ゲーザンメド曲登小学校の所在地は四川省理塘県曲登郷。理塘で二泊した後、四台の中国製四輪駆動車に分乗して曲登郷に向かった。道のりは九十キロ余り、そのうちの三分の二は舗装された川蔵公路を走り、公路をそれて北上する残りの三分の一は道路とは名ばかりの想像を絶する悪路。四駆車オンリーのダートコースだ。

 車のドライバーはダシさん。三十七歳、チベット人。理塘生まれで康定の師範学校卒。中学校教員を経て現在、曲登郷郷長(郷党書記)が本務だが、兼務で開校する友好小学校の校長の任に当たっている。校長自らがハンドルを握って案内してくれるというわけだ。大きな体、日焼けした顔に似合う口ひげ。一見豪放らい落な感じを受けるが道中の折々に気配りと優しさが伝わってくる。通訳を通して話してみると、曲登での教育にかける熱い思いや、そこに住む人々のために明るい未来を切り開いていきたいという夢を持っている。頼りになるカムパハンツイ(勇壮をもってなるカム地方の男)だと感じた。

 理塘から約四時間の走行で曲登郷に到着した。たおやかに起伏する山並み、山間を蛇行して流れていく清らかな川、緑の草原に放牧されているヤクや羊の群れ、広い広い大草原…その一角にぽつんと曲登は集落を成している。標高は四,三〇〇。、戸数およそ五百五十戸、人口約二千六百人、主にヤク(高山牛)などの牧畜を生業とするチベット族の人々が生活をしている雲上の村だ。

 近年は漢方薬として珍重されている冬虫夏草が現金収入になるということで、その採取のために遠方の山まで出かける村人も多いという。

 小学校開校式のセレモニーを終えた夕刻、村を歩いていると老人と子供が家から出てきて手招きされた。家の中に入るとバター茶が振る舞われた。温かいお茶が乾いたのどを潤してくれる。言葉が通じないため身振り手振りとメモ帳に絵を描いて家人との交流に興じた。子供もその母親も老人も笑顔が生き生きとしていて実にいい表情をした家族だ.山登での満ち足りたひとときだった。

 (写真と文渡辺千昭-山岳写真家.南アルプス市出身,東京都町田市)

 


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――――チベットカム山岳研究同行会 烏里 烏沙 制作・2007年12月15日――――