沙魯里山系周辺の植物

 

 19世紀末に康定付近で布教活動をしていたフランス人宣教師のJ・A・スーリエが、植物採集のため、よく雀児峠や雀児山の周辺を訪れたのである。

 雀児山は沙魯里山系に属し、沙魯里山系は金沙江と雅竦の間の分水嶺で、山系は範囲が漠然として四川省境でもっとも長く幅広い山系である。甘孜チベット族自治州、涼山彝族自治州西部に位置している。北は甘孜の南喀ヘン老熱(5,992m)と西に延びる山塊、南は亜丁の仙熱日をはじめとする貢クツ三山におく。主要な山脈は雀児山、素龍山、海子山、木拉山などがあり、南は雲南省境内に引き延ばしている。山系の長さは南北500〜600km、東西の幅は200kmある。山体は花崗岩、石灰岩、砂板岩、千枚岩などからなり、山塊の高度は5,500m以上で、党結真拉(6,060m)を含む6,000mを超える山が多い、最高峰は6,204mの格聶山で、康南(カム南部)第一峰ともいう。

 高度4,000m以上のところに、“U”の谷、氷磧壟、氷漂礫、氷河湖など、古氷河が数多くあり、四川省横断山脈の中に氷河の湖群が最も集中するところである。

 ただ理塘から稲城の間、5,200m以上のところに400以上の現代氷河が分布している、北部の雪線は5,200〜5,300mで、南部の雪線は5,400〜5,500mある。山塊が高くて大きく、谷間は狭くて深いため、地貌も非常に発育している。

 ここは動植物の天国で、珍奇動物白唇鹿をはじめ、カモシカ、雪豹、チベットターキー、血雉などを棲息している。植物も、世界的に有名な花、メコノプシス、シャクナゲ、サクラソウ、リンドウなどがここには豊かに分布している。

 これまで、高山植物を観察する地域は随分まわってきたが、一番印象にのこっているのがこの地域である、とくに、七月末から八月上旬の理塘毛ヤチ大高原、広大な花畑けが見えないところまで展開して行く夢のような光景が広がり、花畑の中に入ると、まさかのシャングラに入った幸せの気分になり、それ以外なんにも求めるものがない。

 雀児山の周辺では、新路海のまわりを含め、馬尼幹戈から雀児峠までのあいだに、メコノプシス、サクラソウ、リンドウなどが豊かに分布している。とくに雀児峠周辺には、高度が高いので普段見えない種がここで十分に楽しめる。

 馬尼干戈から北石渠方向に向け、最初の峠を越えてその周辺、及びすぐ下の分け道に入ってから、寺院に向かう途中は魅力的である。

 またコンカ雪山は高山植物の楽しめる最高場所の一つとして、まだ知られていない。行き方は、川藏南路の要塞である理塘から南下して、海子山を越え、稲城に着く。稲城から一山を越え、日瓦郷(現在、香り格里拉郷に変えた)を通り、コンカ雪山に入る。

 途中の海子山峠あたりも高山植物を楽しめる場所で、アブラナ属、アカバナ属、イネ属、キク属、セリ属、タデ属、ツツジ属、ネギ属、バラ属などいっぱい見られる。とくに、八月の海子山峠はタデ属の種が目立つ。稲城から山を越える前の斜面にもシャクナゲがいっぱいあり、峠を越えてその周辺にはキク科の種がたくさん見られる。コンカ雪山までの途中、黄色のシャクナゲが印象的である。

 そして、巴塘に向かう途中にも海子山があり、海子山の裏側には措普溝があり、峨々たる山並みの雪山が展開し、美しい高山湖と原始森林の奥に、ジョセフ・ロックが訪ねた七百年の歴史をもち、現在も300人の学僧を擁するニンマ派の寺院、措普寺がある。その周辺は植物を観察するところでもあり、また山を楽しめる、最高の場所である。

 その南には康南(カム南部)第一峰と呼ばれる格聶峰があり、2001年8月にわたしは山の麓のゲルク派の名刹冷谷寺を訪ね、理塘から熱柯郷までと、熱柯郷から寺院までのあいだにたくさんの種を見た。このルートはいまだに一番行きにくいが、秘境と山と高山植物が好きな方にはお勧めする。

 最後にもう1つ、花を見る名所を紹介する、それはミニヤ・コンカ主峰からすこし離れているコンカ三山である。

 コンカ雪山はコンカ三山ともいう、最高峰の仙熱日(6,032m)、央適勇(5,958m)、夏諾冬季(5,958m)の三山の総称で、いずれも未登の山々である。

 1928年、植物研究者ジョセフ・ロックがミニャ・コンカに目ざして、麗江から北に向けて出発、木里のチベットゲルク派寺院の活仏に手伝ってもらい、コンカ雪山と接近し、現地の人たちがコンカ雪山のことはコンカと呼ぶから、ミニヤ・コンカと思われた。ロックはコンカ雪山の1つ、央邁勇でNational Geographic Magazine誌の表紙を飾り、この山塊を初めて写真で世界に知らせたのである。その後、ロックはやっとミニヤ・コンカの前に立ち、夢を叶えた。 コンカ雪山風景区に入り、中古寺を通って、洛絨牛場までの間にアツモリソウ(ラン科)をはじめ、ケシ科、ユリ科、マメ科、ムラサキ科、ユキノシタ科、フウロソウ科、ナデシコ科、セリ科、キク科、ゴマノハグサ科、サクラソウ科、ツツジ科など、さらに洛絨牛場5,200mの牛乳海まで、とくに、牛乳海の近くで素晴らしいケシ科、キク科、キンポウゲ科が忘れられない。

 沙魯里山系、甘孜、新龍、理塘、巴塘、雅江、稲城、得栄、そして、雲南省までのびているこの地域は、普通の観光地だけではなく花を楽しめる最高の場所として脚光を浴びるに違いない。

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―――チベットカム山岳研究同好会・最終更新日:2009年2月26日―――